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レスター・ワンダーマン氏

【第2回】MAに活用すべき「カリキュラムマーケティング」とは?

【ダイレクトマーケティングメソッド】

少し間があいてしまいましたが、MAに実装する「コミュニケーションシナリオ」の作成に役立つ「カリキュラムマーケティング」の事例をご紹介します。

⇒(第1回はこちらから)


【第2回】MAに活用すべき「カリキュラムマーケティング」とは?ワンダーマンの売る広告

■「カリキュラムマーケティング」とは
■「カリキュラムマーケティング」のメリット
■米国フォード社による「カリキュラムマーケティング」型DMの事例
■1本目のDM:女性からみたディーラーの課題あぶり出し
■2本目のDM:女性とディーラーの心理的距離を近づける仕掛け
■3本目のDM:卒業イベント
■「カリキュラムマーケティング」型DMの成果
■まとめ


 「カリキュラムマーケティング」とは

「カリキュラムマーケティング」について復習しておきましょう。

郵便DM時代から唱えられている

郵便DM時代から唱えられている

「カリキュラムマーケティング」は、インターネット商用化のはるか以前の時代、顧客や見込客とのダイレクトなコミュニケーション手法として「郵便DM」が主流だった時代に開発されたものです。

DMは、昔も今も変わらず、「1回完結型」のコンテンツ(セールスレター、チラシ、パンフ等)をターゲット客に送付することが主流。つまり、1回ごとにレスポンス(サンプル請求や製品購入、店舗集客など)の最大化を図る必要があるわけです。

一方、「カリキュラムマーケティング」は、売りたい製品・サービスについてのコンテンツを複数の細かいチャンク(塊)に分割し、一定のストーリー性を持たせつつ、複数回に分けて連続的に送る方式です。いわば「シリーズモノのDM」とも言えます。

 

 「カリキュラムマーケティング」のメリット

売り手としてみれば、自社製品/サービスの特徴やメリット、競合との違いなど、訴求したいポイントは多数あるわけです。しかし、そのすべてを1回完結型のDMに詰め込んでしまうと、買い手にとっては情報過多となり、逆に購買意欲を減退しかねることにつながりかねません。

そこで、「カリキュラムマーケティング」では、買い手が一度に理解できるボリュームの小分けしたコンテンツを順次届けることで、自社製品/サービスに対する理解や関心を少しずつ深めてもらうことを狙うわけです。学校の授業で、各科目について一単元ずつ学んでいったのと同じ仕組みです。だからこそ、教育現場で利用されている「カリキュラム」という言葉を採用しているのですね。

また、複数回のコミュニケーションを通じ、顧客ニーズを収集しながら適切なインセンティブを組み込むことで、トータルの反応率を高めていけるというメリットもあります。

 

 米国フォード社による「カリキュラムマーケティング」型DMの事例

「カリキュラムマーケティング」の復習もできましたので、ここからは本題のワンダーマン社による米国フォード社の事例についてご紹介していきます。

フォード社の依頼は「女性にもっとフォード車を販売する」というものでした。

当時(1980年代前半)、米国における自動車購入者の40%は女性でした。しかし、女性を対象とした広告は非常に難しいものでした。すなわち、女性を変に持ち上げたりしない広告、性的差別を避けた広告を制作することは難易度が高いのです。(これは現在も同じかもしれません)

女性向けの自動車広告は難しい

女性向けの自動車広告は難しい

実際、当時展開された女性対象の自動車広告では、逆に「けなされた」あるいは「押し付けられた」といったネガティブな印象を与えてしまうことが多くあったそうです。とはいえ、女性対象の自動車の広告が難しいからといって、女性限定のプログラムを企画することは、対象から除外となる男性からの反発も覚悟しなければなりません。

こうした状況を踏まえ、ワンダーマン氏のチームは、女性の自動車所有者や見込客との間で、対話を確立するカリキュラムマーケティングのプログラム開発に取り組みました。開発された3本のDMが送付されるプログラムは、テストマーケティングとして、サンディエゴ(アメリカ西海岸の都市)とダラス(アメリカ南部有数の都市)の2都市で展開されました。

 

 1本目のDM:女性からみたディーラーの課題あぶり出し

1本目のDMは、16万人の女性に対する「アンケート」でした。

署名入りの差出人は、フォードの女性役員。アンケート項目としては、「車を買うときの一番大きな問題は何か」や、「フォード車の購入について今後どのように考えているか」といった内容が含まれていました。

1回目のDMの回答率は、

・フォード車所有者:33%
・競合メーカーの所有者:17%

 

となりました。競合メーカーの所有者に比べ、フォード車所有者で高めのレスポンスを達成しています。

アンケートの回答としては、ほとんどが「ディーラーのセールス担当者や修理担当者の応対ぶりには我慢ならない」を答えていました。

 

 2本目のDM:女性とディーラーの心理的距離を近づける仕掛け

1回目のDMから2か月後、アンケート回答者に対して2通目のDMが送られました。

このDMでは、1通目のアンケートで評価の低かった女性へのサービス改善の特別研修をディーラーに対して開始したことを伝えつつ、「採点レポート」「額面25ドルの証書」を同封し、以下のことを依頼したのです。

・「25ドルの証書」女性がディーラーに行った際、優れた応対をした担当者には、賞与として証書を渡してほしい。
・「採点レポート」態度の悪い担当者については「採点レポート」に記入してフォードに送付してほしい。

 

この2回目のDMには、さらにインセンティブが組み込まれていました。それは、女性がディーラーに行って試乗をすると、地元デパートの商品券(額面25ドル)をもらえるというものです。ただし、商品券をもらうためには、ディーラーにて本当に試乗したことを証明してもらう必要がありました。

こうして、顧客の女性とディーラーが相互に「報酬を与え合う関係」とすることで、二者間の心理的距離を近づけさせることを狙ったというわけです。

 

 3本目のDM:卒業イベント

最後となる3本目のDMは、「卒業イベント」です。

1,500人を超える女性が参加するイベントが開催できた

1,500人を超える女性が参加するイベントが開催できた

DMにレスポンスをしたすべての女性に対し招待状が送られました。地元ディーラーのショールームにて特別に開催されるファッションショーへの招待状でした。会場ではワインとチーズが振る舞われ、また特別な修理方法のセミナーや自動車購入のための資金調達方法についての情報が提供されました。

ファッションショーの出席者には、もれなく金のブレスレットがプレゼントされたこともあり、サンディエゴのあるディーラーでは、1,500人を超える女性が参加するという期待以上の集客ができたそうです。

 

 「カリキュラムマーケティング」型DMの成果

この3通のDMを主軸とする女性向けの「カリキュラムマーケティング」プログラムの成果はすばらしいものでした。サンディエゴとダラスの2つのテスト市場において、1,600台のフォード車が追加的に販売できています。(このプログラムを実施しなかったと想定した場合の販売台数に上乗せする形で、さらに新たに1,600台のフォード車が売れたという意味)

細かく分析すると、当該プログラムの対象としなかった「コントロールグループ」と比較して、プログラム対象者のフォード購入率は2.5倍ほどの高い購入率だったそうです。

こうして大成功をおさめた女性向けカリキュラムマーケティングプログラムは全米へと展開され、各地でも高い成果を残したのです。

 

 まとめ

単発的・刹那的なメッセージを届ける一般の広告と異なり、綿密に企画され、関連性をもたせた時系列の連続的なコミュニケーションを畳みかける「カリキュラムマーケティング」は、“深く頭脳に浸透する”効果があります。

郵便DMだけを用いるカリキュラムマーケティングは高額な予算を必要としますが、MAを活用したデジタルマーケティングにおいては、郵券代や紙の印刷費などの実費がほとんど発生せず、比較的少額な予算でも実行可能です。

成功の鍵は、ターゲット顧客や見込客のカスタマージャーニーをイメージし、心理の機微を的確にとらえた洞察に基づくコミュニケーションシナリオの開発力。前回と併せ、カリキュラムマーケティングの神髄をしっかりと理解し、自社のシナリオ設計に役立てていただければと思います。


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松尾順

執筆者:松尾順

株式会社ジェネシスコミュニケーション
マーケティングインテリジェンス部
執行役員/マーケティングコンサルタント


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